マレーシアの障害者福祉概要ー2

マレーシアにおけるNGO活動

マレーシアに於ける障害福祉行政のあらましは以上に述べたとおりである。
実際の福祉活動の担い手は、民間福祉団体(NGO)である。福祉NGOにも幾つかの種類があるが、いずれにしてもマレーシアにおいては登録承認されないと何らかの社会活動は出来ない仕組みになっており、その意味では日本のような任意団体による福祉活動というものはない。これら民間活動を総称してNGO活動と呼ぶ。

従って、NGO活動は政府活動の補完的役割というよりは、むしろ政府はNGO活動に依存しているといっても過言ではない。このため、政府とNGOとの関係はおおむね良く、ペナン州についていえば、州政府がNGOの活動がしやすくなるために、通称NGOセンター(Kompleks Masyarakat Penyayang、英語でいうと、Caring Society Complex)を建設し、低額で事務所の提供、大小の会議室の提供、スタッフトレーニングの場の提供、イベント会場の提供などを行っている。しかしNGO活動のための政府の費用負担は極めて限られており、受けているところでも多くて運営費の25%程度だといわれる。

後述するが、NGOが政府の細かい規制を受けることなく比較的自由に活動できることは全体的な福祉社会構築の展望からすればよいことであるが、問題点もある。例えば、NGOの活動は自発的なものであり、必ずしも全国にくまなく行われているわけではなく、比較的都市部に偏りやすいため、都市部とそれ以外の地域の格差が出来やすい。また、運営にかかる経費のほとんどは一般の寄附金によるため、安定的な予算の確保が困難なため、NGOらしい独自の時代創出的な活動が制限されざるを得ない点などである。さまざまな課題を抱えながらも、市民の協力により活動しているのがマレーシアのNGOである。このことは行政と市民の描く社会の将来像として大きな意味を持つと考えられるが、これについては、改めて考察したい。
なお、マレーシアにおいてNGOとは、福祉、環境、消費者、医療、青少年育成、宗教、国際協力など多様で、日本のNPO活動と同義と考えることが妥当である。日本では国際活動に関わるものをNGOといっており、主に地域的市民活動をNPO活動といっているが、マレーシアでは必ずしも「国際」に限定した用語の使い方をしておらず、非営利民間活動の全てをNGO活動としている。
一福祉NGOの取り組み
(ACS成立への道筋と経過)

私が一人の外国人としてマレーシアの社会でNGOの設立に関わり、運営している経験を、やや個人的な考え方や経過とともに事業実践も含めて記させていただくことにする。マレーシアの福祉活動紹介というよりは、日本での経験をふまえた試みとして、また一つの提言としてご理解いただければ幸いである。

福祉活動と市場調査

一般社会に於ける通常の活動であれば、当然のことながらその活動の必要性や継続の可能性などを探って事前に慎重な検討が行われるであろう。例えばパン屋の開店を計画するのであれば、近くに類似のパン屋はあるかどうか、近隣地域の人たちはどんなパンを求めているか、嗜好から店のデザイン、価格など、あらゆる角度からの検討が行われてはじめて事業計画に移ることになる。こうしたいわば市場調査が福祉領域では従来余り行われてこなかった。それは、利用者が選択するほどの資源が地域になく、何であれできさえすればよいという極端にいえば企画者任せにせざるを得ない状況にあったといえる。また一方では、地域特性や利用者のニーズはどうであれ、入所型の施設をつくってそこに入れ、処遇内容の善し悪しは入ってからの問題という側面があったともいえる。このため、日本では従来福祉領域に「マーケティング」という発想は乏しかったと言える。

近年、地域福祉ということがしきりに言われるようになり、ようやく障害のある人も高齢も、福祉サービスを必要とする全ての人たちも一般の大多数の人たちと同じように「生活の質」が問題とされるようになってきた。社会の仕組みとしても、さまざまな選択肢が用意されるようになり、日本全国どの地域でもある一定水準以上のサービスが得られるようになってきたことは福祉水準の向上として喜ばしい。しかし、福祉活動も社会の軸をなす以上、通常の社会活動同様の手順を踏むのが自然であろう。その第一歩は、サービスを必要とする人たちのニーズを把握することからはじめるのが順当であろうと考え、私はマレーシアの地でこれを実行した。

1993年4月にマレーシアのペナンに渡った私は、それまで日本で関わった知的障害者の福祉活動への反省の思いも込めて、ペナンの福祉資源の見学及び関係者の聞き取り調査を行った。続いてマレーシア科学大学社会科学部(School of Social Science,University Science Malaysia~略称USM)に所属させてもらい、知的障害者を中心とした「生活の実状とニーズ」に関する調査活動を行った。この調査は、ニーズ調査であると共に意識調査でもあった。調査はマレーシア全13州で3年間継続して行われた。

以下に本稿の論旨に関わる部分の結果の要点のみ簡単に示す。この調査は、社会福祉法人清水基金の援助によって行われた。

調査は障害者本人とその家族への質問紙とインタビュー(第1次)及び障害者の周辺(行政、ワーカー、教師など)への質問紙とインタビュー(第2次)によって行われた。第1次調査の対象となった人たちは、知的障害をもつ児童・成人とその家族、1,634人(回答者数)、回答者は本人の父親が44.41%、母親が32.47%であった。第2次調査は、605人の回答であった。

ここでは、第1次調査で行った「もっと良い暮らしのために必要なことは何ですか」の質問、第2次調査の「障害福祉の向上のために、いま必要なことは何ですか」の質問、及び同じく第2次調査の「どうすれば、今後の障害福祉は向上すると思いますか」の質問への回答状況を記す。

なお、比較のために日本で同時期同じ質問をした結果を、合わせた表を載せる。これは岡山県を中心に行ったものである。マレーシアと日本が、背景やシステムの整備状況などが大きく異なるなかで、似た傾向を示した部分があり、親の思いの共通点として興味深かった。特に居住の施設に関してはかなり整備された日本とほとんどないマレーシアで同一傾向ということは考えさせられた。

*マレーシアと日本における調査結果

表3 「もっと良い暮らしのために、必要なことは何ですか。」

①Improvement of early intervention center.
②A special school for the handicapped.
③An ordinary class’s acceptance of the disabled.
④Improvement of workshop for the disabled.
⑤Improvement of residential institution for the disabled.
⑥A place for special treatment.
⑦Improvement of work opportunities(office,factory)
⑧Improvement of community based facilities(such as a group-home)
⑨Others.

表4「障害福祉の向上のために、いま必要なことは何ですか」

①Skills training of experts such as counselors,medical staff,and physic therapists.
②Educating parents to understand the disabled.
③Early discovery,early intervention. 
④Understanding of ordinary citizens regarding the problem of disabled.
⑤Improvement of work opportunities after graduation.
⑥Improvement of school education.
⑦Financial assistance.
⑧Improvement of community based facilities(such as a group-home)
⑨Care for the severely disabled.
⑩Formation of parent’s association.
⑪Improvement of residential institution for the disabled.

表5 「どうすれば、今後の障害福祉は向上すると思いますか。」

①By training more social workers because the present number of staff is inadequate.
②By increasing government budget for welfare service.
③By improving the quality of staff.
④By coming up with a consensus on the direction of welfare for the disabled.
⑤By carrying out information campaigns through media.
⑥By forming associations of parents and persons concerned.
⑦By coordinating volunteer activities for more effective management.
⑧By encouraging more private welfare institution.
⑨By getting assistance from overseas.

商業音楽の音楽賞